離し、われとわが命をけずるような苦行であるが、さて、その苦行を何年つづけても、どうなるものでもない。こころのやわらむということは、ないのである。と、今度こそは、龍造寺主計もさとりましたよ。町人として、掛川の仕事におちつくつもりでおる。すぐにとはいわぬ。このつぎ出府するまでに、もう一度考え直してはくれぬかな」
お高は、黙っていた。お高は、恩があるだけに、この無邪気な人の心臓を傷つけたくなかった。が、それと同時に、何か新しい借りに落ちこんだような気もちは、いっそうひろがって行くのだ。お高はいつも誰かしら男の人に、何らかの形で借りがあるように運命づけられているように、じぶんを感じた。
お高の恋する若松屋惣七を助けた龍造寺主計が、いまお高を恋しているのだ。が、いかに思われても、この借りだけは、返すことができない。お高は、苦しくなった。お高は、泣き出したかった。
「いいえ、龍造寺さま。考え直せとおっしゃっても、考え直すことがないのでございます。とうていおことばにしたがうことはできませんのでございます。どうか悪くお思いくださいませんように」
龍造寺主計は、べつに怒ったふうもなく、いきなりたち上がった。
「さようか。ぜひもない。しからば、友として、長くつきあってもらいたいな」
「はい。それはもう、あらためて高からお願い申しあげますでございます」
龍造寺主計は、縁から庭へおりようとして、ふりかえった。
「ひとつ、ききたいことがある」
「はい。何でございます」
「あんたは、若松屋惣七どのを、思っておらるるのではないかな。若松屋惣七殿と、いっしょにならるる気ではないかな」
お高は、思い切って、はいさようでございます。事情があって、今のいまというわけには参りませぬが、いずれは晴れてそういうことにと旦那様がおっしゃっていてくださいます、と、口に出かかったが、龍造寺主計の真率《しんそつ》な視線を浴びると、つと舌がためらった。それにたとえ名だけにしろ、磯五という良人のある身が、そういうことをいっては悪いであろうと思い返された。
うち消すよりほかないのだ。
「旦那様となど、そういうおはなしはすこしもございません。ございましても、わたくしは、いやでございます」
「さようか」
「あの、もうじき縫い上がりますでございますが、のちほど、お部屋のほうへお届けいたさせますでございます」
龍造寺
前へ
次へ
全276ページ中115ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング