畳がえをしたり、新入りの子供のために机を買ってやったりできるから、和尚もよろこぶだろうと思った。和尚は、俗姓を柘植《つげ》という人であることを、お高は聞いたことがあった。
 お高はふとそれを思い出して、不思議な気がした。お高の父は、深川の古石場《ふるいしば》に住んでいた御家人だったが、母は、柘植という町医の娘であった。あまりない苗字《みょうじ》なので、一空和尚は、母方の何かに当たるのではないかと、ちょっとそんな気がした。
 が、そんな気がしただけで、すぐほかの考えごとにまぎれてしまった。
 龍造寺主計という人物には、驚かされたけれど、江戸で、ある人間をさがし出して罰を加えるのだといった彼のことばには、お高は、たいして興味を感じていなかった。おおかた好きな女でもひどいことをした男があって恨みをいだいているようなことであろうと思った。
 若松屋惣七は、どこへ行ったのか、まだ帰って来なかった。
 お高は、名だけにしろ良人《おっと》となっている磯五と、ほんとうの良人のように思っている若松屋様とにはさまれている、今の自分の立場を考えてぞっとした。磯五と若松屋の抗争《あらそい》が、音もなく燃えさかる火のようなものに思えて、お高は、じぶんのからだがじりじり焼けてゆくような気がした。
 龍造寺主計と対坐していたときのまま、敷居近くにすわって、ぼんやり考えこんでいた。
 おもての金剛寺坂を、何かうたいながら、三味線をひいて行く、男と女の声がしていた。お高は、それを聞いて、流しの芸人夫婦を想描した。その雨をも風をも分け合っているすがたをお高はうらやましく感じた。何もかも知りあい話しあって、この世の中の重荷をいっしょにかついで行く相手のある人が、いちばんしあわせなのだと思った。
 磯五のことが、心に浮かんだ。磯五という人は、女の口に口を当てて、誠実《まこと》を吸い取りながら、心で他の女のことを考えている、恐ろしい人だと思った。自分がそれに気がつかなかったように、いまおせい様はそれに気がつかないでいるのだ。
 おせい様ばかりではない。あの妹に化けているお駒という女も、すっかり磯五のものになっているのだろうが、磯五の人柄には気がつかずに、女のほうから打ち込んでいるに相違ないのだ。お高は、磯五が、女の毒にあてられてからだがきかなくなればいいと思った。
 そんなことより、お高としては、若松屋惣七
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