をこの急場から、救いさえすればいいのだ。それには、どうしたらいいか。若松屋惣七は、まだあのおせい様の手紙を見ないのだから、おせい様が矢のように金の督促をするかげに、磯屋五兵衛が糸を引いていることは知らないのである。
 これだけは知らせたくないと思って、お高は、こんなに苦心をしているのだが、ああしておせい様のほうが、だめになった以上、今度は、磯五ひとりに会って、まごころをこめて頼むよりほかはあるまい。まごころは必ず人を打って、人を動かすはずである。磯五とて、人間には相違ないのだから、ことによったら理解をして、おせい様を通して若松屋さまをいじめることを思いとまってくれるかもしれない。いや、きっと思いとまらせてみせる。
 とお高が、頼みにならないことを頼みにして、やっと自分を励ましているときに、庭の草を踏んで来る跫音《あしおと》がした。滝蔵だ。
「旦那は、まだお帰りがねえようだが、おそいことですね」
「どちらへおまわりになったのか、わたしにも心あたりがないのですよ」
「それはそうと、いまどこかの守《もり》っ娘《こ》が使いに来ているのです。誰か、男の人に頼まれて、お前様を迎えに来たとのことで、裏門に立って待っているので」
「おや、いやな話でございますねえ。わたしは男の人に呼び出されるような覚えはありませんよ」
「わっしもそう思って、めったなことがねえように断わったのですが、ちょっと帰って、またすぐ同じ口上をいって来るのです。二度も三度も来るのです」
「いやですよ。断わってくださいよ」
「何度断わっても、来てしようがねえのです」
「人聞きが悪いじゃあありませんか。何かわたしに、まともに来られない男の相識《しりあい》でもあるようで――誰でしょう、用があったら、自分で来たらいいじゃないの、ねえ」
「そうですよ。金剛寺さんの実朝様のお墓の前に待っているというのですよ」
 金剛寺と聞いて、お高は、ことによると今出て行ったお侍ではないかと、思った。あの変人が、何をまた思いついて、子守《こもり》をなぞ使いに、そんなことをいわせてよこしたのだろう――。
「行ってみようかしら」
「そうですか。守っ娘が待っているのです」
「行ってみようよ」
 お高はたち上がった。滝蔵が、心配そうな顔をした。
「あっしが、そっと後をつけて行ってもようがすよ」
「大丈夫ですよ。あそこは、参詣《さんけい》の人も多い
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