な日光がひたひたと流れこんでいる。
奥ざしきとはいっても、玄関から二た間目の、そこの三尺の縁に、かたちばかりの庭がつづいて、すぐ眼のまえに屋敷をとりまくなまこ塀の内側が、圧《お》すように迫っている部屋である。
床の間のふちに後頭部を載せて、赤く変色した黒紋つきの襟をはだけ、灰いろによごれた白|袴《ばかま》の脚を投げ出して、一角の兄、清水狂太郎は、ぐっすり眠っていた。
線の険《けわ》しい、鋭角的な顔だ。まだ四十になったばかりなのに、だらしなくあいた胸元に覗いている黒い、ゆたかな胸毛のなかに、もう一、二本、白く光るのがまじっているのを見つけると、一角は、この、放蕩無頼《ほうとうぶらい》で、人を人とも思わない変りものの兄が、何となく、ちょっと可哀そうに思われて来た。
その瞬間、老驥《ろうき》ということばが、一角のあたまのなかに、想い出された。老驥《ろうき》、櫪《れき》に伏す。志は千里にあり――そんなことを口の奥にくり返して、急にかれは、この厄介者の狂太郎に対して不思議に、いつになくやさしい、センチメンタルな気もちにさえなって往った。
「兄貴、起きてくれ。話しがあるのだが――弱ったなあ
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