えこっちゃあねえ。そう毎晩、毎晩、首根っこの白い姐《ねえ》やと酒じゃあ、帰りの五十三次が十次も来ねえうちに、素寒貧《すかんぴん》になるのあ知れきってるって――やい、すると手めえは、何と吐《ぬ》かしゃがった。行き大名のけえり乞食が、江戸っ児の相場だ? べらぼうめ、これから品川へへえるまで、水だけで歩けるけえ。金魚じゃあるめえし――。」
「まあ、兄い。そうぽんぽんいうなってことよ。勘弁してくんな。その代り、おいらが明日から、おまはんの振り分けも担《かつ》いで歩かあ。坊主持ちじゃあねえ。ずっと持ちだぜ。そんなら、文句ああるめえ。」
と、さかんに高声を洩らしている、お伊勢詣りの帰りと見える熊公、がらっ八といった二人伴れが、いかにもそれらしい拵えの大高源吾と、赤垣《あかがき》源蔵《げんぞう》なのだった。
と思うと、中庭をへだてた向うの部屋では、
「はい。拙《せつ》などの医道のほうも、お武家さまの武者修業と同じことで、こうして諸国を遍歴いたしまして、変った脈をとらせていただきますのが、これが、何よりの開発でござりましてな――。」
医者に化けた村松喜平である。
なるほど、武者修業めいたいでた
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