重を吉良へ世話してくれ。頼む。勿論《もとより》、五万三千石の弟の奥では困るから、そこはそれ、そちのいつもの伝で、要領よく、魚屋なり灰買いなり、仮親に立てて――。」
「糸重さまを、ね。糸重様なら、申し分ござんせんが、御身分を隠して、と――。」
 平茂の眼に、異様な輝きが来た。

      三

 日光は、どこにでもあって、石も、木も、庭ぜんたいが幸福そうにあたためられていた。
 小さな寒梅《かんばい》の鉢植を、自分で地に根下ろして、岡部美濃守は、手を土だらけにしていた。
 背中に跫音を聞いて、ふり返った。
 久野が、腰を屈《かが》めて近づいて来ていた。一人だと思ったのが、重なっていた十寸見《ますみ》が、うしろに動いて見えた。
 そばまで来ないうちに、美濃守の大声だった。
「訊いてまいったか。」
「は。吉良様にはお眼通りかないませんでしたが、御用人をとおしまして――。」
 ならんで立ち停まって、久野が答えた。
「天奏衆お宿坊の儀は広光院なそうにござります。」
 美濃守は、大きな音を立てて、土を払った。
「広光院か。そんなことは、はじめからわかっておる。普請等手当て、掃除万端は、何といった
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