ずにはいられなかった。
「一般の読者は低劣なものでしょう。使丁《してい》走卒《そうそつ》を相手にする気で戯《ふざ》け半分に書けばよいのでしょう。」
と六樹園はそれが骨《こつ》だと教えるように三馬に言った。三馬は表情をあらわさなかった。
「さあ、さようなものでげすかな。」
「尊公などの読者を掴む秘伝は何です。やはり筆を下げることでござろう。」
「下げると見せて下げるにあらず――。」
「いや、そうでない。大衆は済度《さいど》しがたいものです。愚劣な敵討物を騒ぐだけでもそこらのことはよくわかります。調子を低《さ》げれば大当り受合いだと思いますがな。」
「おのれから低めてかかってどうして半人なり一人なりに読ませて面白かったと言わせることができやしょう。それでは頭《てん》から心構えが違いやす。」
「なに、失礼ながら尊公などは臭いもの身知らずです。この私がぐんと調子を下げて、あたまに浮かび放題、筆の走るに任せてでたらめを書けば喝采疑いなしです。」
「でたらめに見えてでたらめにあらず。」
三馬もさすがにちょっとむっとしてそう言った。
すると六樹園は面白そうにこう提案した。
「一つ競作をやりまし
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