頭へ来た、そのことによると[#「ことによると」に傍点]がいざとなると一抹の不安を投げるようでもある。しかし、いきり立っている甚吾左衛門に対してはもちろん、きょうの今までの自分の見巧者の手前もここはなんとかぜひ一言なかるべからざるところだ。第一ぐずぐず[#「ぐずぐず」に傍点]していて他の者に一の当りを取られてはかなわぬ。直感とでも言おうか、一ばん先に心に浮んだのを吐きだして大過ないどころか、たいがいそれが的中していることは今日の成績が立派に証明している。よし、一か八か、一つぶつかってやれ――こう十郎兵衛がしっかり肚《はら》をきめる前に、かれはいかにも確信ではち[#「はち」に傍点]きれそうに、逆心《さかごころ》のあるところを掴まえて、これは青江ものでござる、なんかと鹿爪《しかつめ》らしく並べ立てていたのだ。ちょっとおかしかったが、彼としても一生懸命、骨の高い肩を無理にも張って見せなければならなかったくらいである。
 すると、甚吾左衛門は予期以上に急《せ》きこんで来て、刀身にある切込みがそれほど古くはないから、これはどうしても粟田口だと言ってきかない。言われてみればそうかな、と思いながら、十
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