だったが、そう言おうとしていると、甚吾が先《せん》を越して国光と口を入れたので、すこし意地にかかって黙って首を捻った。そして、首をひねりながら熟視《よくみ》ると、今度はどうも粟田口物とは見えない、そうかといって何国《どこ》の誰ともべつに当てがつかないのだ。途方にくれて思慮深そうに構えこんでいると、甚吾の方から開き直って、
「安斎、粟田口だな。」
 と突っかかって来たのだ。うっかり、いかにもさよう、同眼でござる、と出ようとするのを押えて、ふうむ[#「ふうむ」に傍点]と鼻の穴から息を吹いたとたん、思いがけない考えが十郎兵衛の頭にひらめいた。ことによると、これぁずっ[#「ずっ」に傍点]とさかのぼって備中青江鍛冶ではないかしら――とこう思ったので、彼は瞳を凝らして三頭《みつがしら》から鋩子先《ぼうしさき》、物打ち、かさね、関《まち》と上下に見直してみたが、見れば見るほど、青江、それも為次《ためつぐ》どころの比較的あたらしい作とし観じられない。いよいよもって青江だなと、十郎兵衛は内心見極めをつけてしまったが、それかといって、そう言いきるには、まだ充分の自信がなかった。ことによると、とはじめ自分の
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