わいく》、ひとしく無骨者の両人、一本の蛇の目を両方から挾んで、片袖ずつ濡らして屋敷を出た。
いとど人のこころの落ちつく夜、それに絹糸のような雨が降っているのだ。道行めいた気分がすっかり二人をしんみりさせて、どっちからともなく、気軽に、歩きながらの会話《はなし》になった。
「降るな。」
「うん。陽気のかわり目だからな。」
「これでずん[#「ずん」に傍点]と暑くなるだろう。」
「暑くなるだろう。」
また黙って二、三歩往く。夜更けだから店の灯りもなく足もとがはっきりしない。
「おい、水たまりがあるぞ。」
「うん。ここはどこだ。」
「芝口だ。」
「芝口か。」
「うん。」
沈黙におちる。風が出てきた。
「貴公、濡れはせぬか。傘をこう――。」
「いやいや。これでよい。それより貴公こそ濡れはせぬか。」
「なんの。」
「よく降るな。」
「よく降るな。」
「ここらの景色――どうだ、城下はずれに似ておるではないか。暗くてよくは見えぬが。」
「さよう。そういえばそうだ。あの、何とかいう稲荷のある――。」
「ぼた餅稲荷であろう。」
「そうそうぼた餅稲荷の森から小川にそうて鼓《つづみ》ヶ原《はら》へ抜けよ
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