だったが、そう言おうとしていると、甚吾が先《せん》を越して国光と口を入れたので、すこし意地にかかって黙って首を捻った。そして、首をひねりながら熟視《よくみ》ると、今度はどうも粟田口物とは見えない、そうかといって何国《どこ》の誰ともべつに当てがつかないのだ。途方にくれて思慮深そうに構えこんでいると、甚吾の方から開き直って、
「安斎、粟田口だな。」
 と突っかかって来たのだ。うっかり、いかにもさよう、同眼でござる、と出ようとするのを押えて、ふうむ[#「ふうむ」に傍点]と鼻の穴から息を吹いたとたん、思いがけない考えが十郎兵衛の頭にひらめいた。ことによると、これぁずっ[#「ずっ」に傍点]とさかのぼって備中青江鍛冶ではないかしら――とこう思ったので、彼は瞳を凝らして三頭《みつがしら》から鋩子先《ぼうしさき》、物打ち、かさね、関《まち》と上下に見直してみたが、見れば見るほど、青江、それも為次《ためつぐ》どころの比較的あたらしい作とし観じられない。いよいよもって青江だなと、十郎兵衛は内心見極めをつけてしまったが、それかといって、そう言いきるには、まだ充分の自信がなかった。ことによると、とはじめ自分の頭へ来た、そのことによると[#「ことによると」に傍点]がいざとなると一抹の不安を投げるようでもある。しかし、いきり立っている甚吾左衛門に対してはもちろん、きょうの今までの自分の見巧者の手前もここはなんとかぜひ一言なかるべからざるところだ。第一ぐずぐず[#「ぐずぐず」に傍点]していて他の者に一の当りを取られてはかなわぬ。直感とでも言おうか、一ばん先に心に浮んだのを吐きだして大過ないどころか、たいがいそれが的中していることは今日の成績が立派に証明している。よし、一か八か、一つぶつかってやれ――こう十郎兵衛がしっかり肚《はら》をきめる前に、かれはいかにも確信ではち[#「はち」に傍点]きれそうに、逆心《さかごころ》のあるところを掴まえて、これは青江ものでござる、なんかと鹿爪《しかつめ》らしく並べ立てていたのだ。ちょっとおかしかったが、彼としても一生懸命、骨の高い肩を無理にも張って見せなければならなかったくらいである。
 すると、甚吾左衛門は予期以上に急《せ》きこんで来て、刀身にある切込みがそれほど古くはないから、これはどうしても粟田口だと言ってきかない。言われてみればそうかな、と思いながら、十
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