終わり]
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池田 意気地なし! 武士の風上に置けんやつとは、貴様のことだ! 人心はすでに殿を離れておるのだぞ。この腐れかかった封建制度は、今にも倒れんとしているのだ。おれにはそれがよくわかる。誰か一人、ここで下剋上《げこくじょう》の口火を切る者があれば、天下|挙《こぞ》って起ち上るのだ。臣下が主君に怨みを報ずる。じつに驚天動地の痛快事じゃあないか。それには今貴様は、絶好の立場におるのに――。
郁之進 (地面に転がりながら、冷静に)殿に恨みを報いる? なんでおれがそのような――考えるだにもったいない!
池田 貴様は、人間としてなっておらん。うぬ! こうしてくれる!
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ぺっと唾を吐きかけて、池田は立ち去る。
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郁之進 (倒れたまま、その唾を拭いもせず夢みるような独り言に)あの日、先殿様の御命日に、殿が随福寺へお成りのみぎり、選ばれてお茶を献じた加世めが、畏《おそ》れ多くもお眼に触れて召し上げられた――。
森 (同情するように、また焚きつけるように)うむ。そ
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