に)君も偉くなったねえ――。(鋭く)安君! 君は、あとで、同志の人たちに迷惑を及ぼしたくないと考えて、そうやってわざとグルウプから除外されようとしているのだろうが、僕は、そのちっぽけな心遣いが気に食わないのだ。
安重根 (独り言のように)そう見えますかねえ。ふん、先生らしい考え方だ。私はただ、みんなに会いたくないんです。会いたくない――と言うより、会うのが恐しいのです。
李剛 なぜです。僕にはよくわかっている。いよいよ決行に近づいて、君は同志の信を裏切ったように見せかけて一人になろうとしている。なるほど、愚かな同志は、君の狙い通りに君を排斥するだろうさ。しかし、それはほんのしばらくの間だということは、誰よりも君自信が一番よく知っている。後になって君の挙を聞いて、一同はじめてその真意を覚る――。(苦笑)昔から君のすることは万事芝居がかりだった。
安重根 (苦しそうに)同志? 先生は、何かと言うと同志です。僕は、同志などというものから解放されて、自分の意思で行動することはできないのか――。
李剛 (冷淡に)それもいいさ。だが、自分の名を美化するためには、人の純情を翻弄してもかまわないものか
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