ね。
安重根 (淋しく)そんなことより、僕はいま、僕自身を持て余しているんです。(起ち上る)この気持が解ってもらえると思って来たんですが――僕は、ここへも来るのじゃあなかった。
李剛 君も知っているだろう。今日は煙秋《エンチュウ》から安重根が出て来るというので、ウラジオじゅうの同志が、まるで国民的英雄を迎えるように興奮して、泪ぐましいほど大騒ぎをしていた。
安重根 (憤然と)止して下さい! 馬鹿馬鹿しい。(歩き廻る)あなたは人が悪いですね。何もかも御承知のくせに、じつに人が悪い。
李剛 (笑い出して)それはどういう論理かね?
安重根 そうじゃありませんか。先生はさっきからしきりに同志同志と言いますが、僕はこのごろ、その同志というやつが重荷のように不愉快なんです。(突然、叫ぶように)いったい同志とは何です! 同志なんて決して、実現しない空想の下に、めいめい、その決して実現しないことを百も知り抜いていればこそ、すっかり安心しきって集っている卑怯者の一団に過ぎません! お互いに感激を装って、しじゅう他人の費用で面白い眼にありつこうとしている――。
李剛 (微笑)まったくそのとおりだ――。(間
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