言わずにはいられない人間だからねえ。
安重根 ははははは、そう思ってしたことです。朴君なり白君なりの口を出る時は、「あいつ臭いぞ。用心しろ」ぐらいのところでしょうが、それが、人から人と伝わっていくうちに、「安重根は日本に買われている」となり、「彼奴《きゃつ》はその金でさかんに女房の名で故郷《くに》に土地を買っているそうだ」などと、まことしやかな話が出て来るに決まっています。ははははは、私も昨今運動に入ったのではありませんから、そういうゴシップの製造過程はまるで眼に見るようにわかります。
李剛 まさかそんなことも言うまいが、しかし、若い連中の失望と恐慌は、相当大きなものだろう。なにしろ、今度の計画が知れてからというものは、安重根という名は彼らのあいだに一つの神聖な偶像になっているからねえ。
安重根 (不愉快げに)そんなこと言わないで下さい。だからこそ今日、わざわざあの日向臭い床屋の店で、張首明とかいう人に調子を合わせて、小半日も油を売ったのですが、すると、それも、私の期待したとおりの結果を生みそうですね。(淋しく笑う)裏口から使いが走って、日本人のスパイを呼んで来ましたよ。
李剛 (皮肉
前へ
次へ
全119ページ中42ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング