んだろう。気が知れねえ。
お光 おや、ここにも一人日本人がいますよ、ははは。
髪を刈っている客 (金学甫の椅子から)そうだ。日本人と言えば、ハルビンは騒ぎのようだね。ロシアの大蔵大臣のココフツォフとかいう人が来て、日本の伊藤公爵を待ち合わせるんだそうだ。
張首明 伊藤公爵って、この六月まで韓国統監をしていた伊藤さんかね。
女一 さよなら。
女二 あたしも行こう。油を売っちゃいられないわ。
近所の男 張さん、じゃまた、後で来るぜ。
張首明 そうかい。もうすぐだがね。
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女三人と近所の男は、張首明夫婦に挨拶して去る。入れ違いに、よごれた朝鮮服に鳥打帽をかぶり、煙草の木箱を抱えた禹徳淳がはいって来て、安重根とちらと顔を見合って腰掛けに坐る。張首明は素早く二人を見較べる。
[#ここで字下げ終わり]
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お光 (張首明へ)あら、煙草まだあったわね。
禹徳淳 煙草じゃありませんよ。髪刈りに来たんですよ。
髪を刈っている客 伊藤さんは今度帰ると、満洲太守という位につくんだという評判だよ。
張首明 そうですかね。豪勢なもんさね。それで、なんですか
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