あ、ゆうべは羽目を外しちゃった。
近所の男 (女一へ)この人の旦那ってのは、まだあの、鬚をぴんと生やして、拍車のついた長靴を引きずってる、露助《ろすけ》の憲兵さんかい。
女一 やあだ。そうじゃないわよ。あんなのもう何でもないわねえ。今度の人は――言ってもいいわね。日本人の荒物屋さんよ。
男 へっ、日本人《ヤポンスキイ》か。
女二 あ、そうそう。今日か明日、また日本の軍艦が入港《はい》るんですって。港務部へ出てる、あたしの知ってる人がそ言ってたわ。
女一 あら、ほんと? 大変大変!
男 そら始まった。大変はよかったね。日本の水兵が来ると言うと、すぐあれだ。眼の色を変えて騒ぎやがる。
張首明 (安重根の顔を剃りながら)情夫《いろおとこ》でも乗ってるというのかい。
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奥へ通ずる正面のドアから張首明妻お光が出て来る。
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お光 情夫ですって? 面白そうなお話しね。(一同へ)あら、いらっしゃい――日本の水兵さんは、みんなロシア娘の情夫《いろおとこ》なんですとさ。
近所の男 どこがよくてそう日本人なんかに血道を上げる
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