《まゆつばもの》だが、奴もただの奴ではあるまい。
 狐《きつね》と狸《たぬき》。お化けにお化け。当たらなくても遠くはなかろう。
 女がそこの古道具屋へはいったことは、誰も知らない。ほど近いお上屋敷へ青山|因幡《いなば》の殿《しんがり》が繰り込んでしまうと、知らぬが仏でいい気なもの、
「姐さん、お待ち遠さま――さあ、やるべえ」
「どっこいしょっ、と」
 二人の駕籠屋、声をそろえて肩を入れた。重いつもりで力んで上げたのが、空《から》だから拍子が抜けて、ふらふら[#「ふらふら」に傍点]と宙に泳ぐ、。
「おっとっとっと!」
 踏みしめたが遅かった。
「わあっ!」
 と駕籠をほうり出して、
「兄い、こりゃどうだ!」
「やっ! 消えてなくなるわけはあるめえ。ちっ、まんまと抜けられたのよ」
「確かに足はあったな。幽霊じゃあなかったな」
「おきやがれ、面白くもねえ」
「どろん[#「どろん」に傍点]と一つ、用いやがったかな」
「伊賀流の忍術じゃあるめえし」
「まだ遠くへは突っ走るめえぜ。おらあ追っかけて――」
「よせよせ、手前なんかに歯の立つ姐御《あねご》じゃねえ。器用な仕事に免じて、こちとら旗あ巻くの
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