芝生《しばふ》に立つやいな、振り仰いで見ると、早くも今の雨戸は締まって心ありげに落花が打っているばかり、空家はやっぱりただの空家で、物音一つしない。
 戸外はのどかな春の真昼だ。
 小鳥の影が地をすべる。
 門まで来て、裏の饗庭の屋敷を望むと、依然として遠くに釘のような立ち姿、殿様の亮三郎がじい[#「じい」に傍点]っとこっちをみつめていた。
 何が何やら文次には考えがまとまらない。夢? 京の夢大阪の夢というが、すりゃこれがお江戸の夢だろうか。
 ――さて、鎧櫃はみつかったが、からでは閑山もほしがるまい。
 いや、それよりもこの貸家で、狂気めいた鋭刃《えいじん》をふるうあの男美人の正体は?
 文次は袂に手を入れて何かを握った。
 思案にふけりながら妻恋坂の通りへ出ると、はるか下で御免安がびっこを引いている。
「親分」と急に威勢のいい大声だ。「御無事で何より――へへへへ、どうも何ともはや――」
「安、歩けるか」
「え? へえ」
「向島の六阿弥陀道までのしてな、辻善六ってのを当たって来い辻善六だぞ」
 安兵衛、急に顔をしかめた。
「あ痛た、た、たっ! おう、足が痛え!」
「すまねえが、頼むぜ
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