の》まる出しの朴訥者《ぼくとつもの》だ。こいつは嘘はいわないと文次はにらんだが、念のため、饗庭の屋敷でどんな人が出て受け取ったかと尋ねると、
「若いきれいなお武家さんで、へえ、まるで女のような方が、ていねいに礼をいって受け取りました」
そりゃそうだろう、買いもしない、みごとな品が飛び込んで来たんだ、これあ馬鹿ていねいに礼の一つぐらいはいったかもしれねえと、文次はこみ上げるおかしさをこらえて、なおも、主人閑山の在否、問題の鎧櫃の内容《なかみ》などをきいてみると――。
鎧櫃には具足がはいっていたそうだがそれも何だか、よほど金目の物らしく、主人はあれから狂気《きちがい》のように飛び歩いていて、今も店にいないとの答え。はてな?
よほど金目の具足? よくいった。小股《こまた》の切れ上がった美人がひとりと数百両の現金、これ以上に金めのものもちょっとあるまい。
が、そんなこととは夢にも知らないから、ただ、さぞかし安兵衛が待ちくたびれているであろうと、急いで妻恋坂を上った文次の頭には「女のような、若いきれいなお武家」というのが、焼き印みたいに、強く大きく押されているばかりだった。
ところが、
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