日。このとおりふさぎこんで、今日も朝から酒。
が、何かしら考えるところはあるのだろう。
つ[#「つ」に傍点]と顔を上げると、そこに行儀よく控《ひか》えている男を見て、にっこり笑った。
御免安《ごめんやす》で通っている乾分《こぶん》の安兵衛《やすべえ》である。
こいつどこかで見た顔――そうだ、あの昨日の仲間奴。今日は穀屋の若旦那というこしらえで、すっかり灰汁《あく》が抜けてはいるが紛れもない、女にまかれた彼《やつ》である。
下町もちょいと横丁へはいると、こう静かになる。
「まあ、ひどいほこりだよ」
姉のおこよがせっせ[#「せっせ」に傍点]と店先へ水を打っている。
そもそも何であんなでたらめのかまをかけて女をつけたのかわからないが、逃げられたのがくやしいか、昨日は一日あちこち歩いたとばかりで、安兵衛、女のことはおくびにも出さずにいる。
そのうちに格別話もないとみえて、名前のとおりに、
「ごめんやす」
とお尻《しり》を上げて、安兵衛は帰って行った。
文次は相変わらずちびりちびりと杯を重ねている。
小半時たった。
おもてで何か話しているおこよの声がして、
「ええ、おりま
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