ぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]とした文次、守人を家へ引きずり込んで、立ち騒ぐお蔦といっしょに、折から起き出たおこよに預ける。そして早口におこよの耳へ。
「姉さん、とうとう来たぜ、いつも頼んであるようにしてくれ」
 一言いうと自分はすぐに戸を閉めて、行燈を吹き消そうとしたが、そのときは、もう税所邦之助が、表を乱打している。あけると、身拵《みごしらえ》厳重に八丁堀の役人がものものしく押し込んで来た。
「文次、貴様の所に、篁守人がいると聞いてもらいに参った。重罪人をかくまった貴様も同罪、しょっぴいて行くからそう思え」
 その邦之助のすぐうしろに、にやり[#「にやり」に傍点]と笑っている御免安兵衛の顔を見つけて文次の腹は煮え返った。
 飼い犬に手をかまれるとはこのこと。
 どうもようすが変だと思ったら、御免安の奴、訴人をしたのだ!
 そんな者はおりませぬ。お疑いなら家探しを――となって邦之助の一行が狭い家を見まわるまでもなく、すぐに怪しい一人の男が見つかった、職人風の頭で蒲団《ふとん》をかぶっている。
「何だ、この者は?」
「新規に雇い入れた寿司の職人でございます。握り三年と申しましていい職人は
前へ 次へ
全240ページ中236ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング