れだけを一個の保証と見て、文句なしにはいることを許して差しつかえないわけだが、出て行った者の口からもれようも知れぬ。しかし、この点は実に看視が行き届いていて、訴人はもとより、すこしでも井戸のことを口外しようとするものは、いつどこからともなく襲ってくる不慮の死によって、永遠にその口をとざされてしまうのが常だった。
 で、来る者は来り、去る者は去って、無言に沈み、暗黒に生きながら、夜も昼もない井底の生活はつづけられてゆく。
 誰が誰やらわからない。
 人殺し凶状《きょうじょう》もいよう。博奕《ばくち》喧嘩《けんか》で江戸構えになっているやつもいるかもしれない。また、このごろの物やかましい世の中だ、幕吏につけねらわれる諸藩の浪士も、入りこんでいないとは誰がいい得る?
 だが、いっさいわからない。いっせいに黒い袋をかぶって黙々として微動し、うごめいているばかり――もし、ここへ御用の者でも来て片っ端からその頭巾をはぎ、顔をむき[#「むき」に傍点]出しにしてならべたならば、何年、何十年来のお尋ね者を発見し、思わぬ人物を見いだし、これは? とのけ[#「のけ」に傍点]ぞるようなことが起こるかもしれない
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