た。
 さあ、驚いたのは、すこし離れた道ばたにしゃがんでいた御免安兵衛だ。いよいよ始まったと思うから、とばっちりを食ってはつまらない。ごそごそはっていっそう黒やみの奥へ引っこんだ。ここなら大丈夫と膝を抱いて見物にかかる。見ていちゃ、こんな面白いものもまたとあるまい。
「さ! どっちもしっかり! ぬかるな、ぬかるな、竹刀《しない》じゃねえんだ、べらぼうめ、さわれあ赤え血が出るんだぞ」
 安の字、頭の中でがんがんどなっている。審判役のつもり――いい気なものだ。
 帰雁が銀二郎の右肩をかすめたと見えたとき、銀二郎のからだから黒いものがまき上がって、ひらひらと帰雁の刀身へまきついた。
「ちえっ!」と思わず守人の舌打ち。
 銀二郎が羽織を脱いで、うしろざまに投げたのである。
 さすがは一流に達した名人。
 敵の多いわが身と知ってか、下にはちゃんと襷十字《たすきじゅうじ》にあやなしている。
 両手をだらり[#「だらり」に傍点]と下げて、平々然たるものだ。
 守人はもう胆《きも》がすわった。
 ししずに羽織を落としている。
「どうしても、やる気か」
 いったのは銀二郎だ。声に揶揄《やゆ》を含んでいる
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