た。
さあ、驚いたのは、すこし離れた道ばたにしゃがんでいた御免安兵衛だ。いよいよ始まったと思うから、とばっちりを食ってはつまらない。ごそごそはっていっそう黒やみの奥へ引っこんだ。ここなら大丈夫と膝を抱いて見物にかかる。見ていちゃ、こんな面白いものもまたとあるまい。
「さ! どっちもしっかり! ぬかるな、ぬかるな、竹刀《しない》じゃねえんだ、べらぼうめ、さわれあ赤え血が出るんだぞ」
安の字、頭の中でがんがんどなっている。審判役のつもり――いい気なものだ。
帰雁が銀二郎の右肩をかすめたと見えたとき、銀二郎のからだから黒いものがまき上がって、ひらひらと帰雁の刀身へまきついた。
「ちえっ!」と思わず守人の舌打ち。
銀二郎が羽織を脱いで、うしろざまに投げたのである。
さすがは一流に達した名人。
敵の多いわが身と知ってか、下にはちゃんと襷十字《たすきじゅうじ》にあやなしている。
両手をだらり[#「だらり」に傍点]と下げて、平々然たるものだ。
守人はもう胆《きも》がすわった。
ししずに羽織を落としている。
「どうしても、やる気か」
いったのは銀二郎だ。声に揶揄《やゆ》を含んでいる
前へ
次へ
全240ページ中201ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング