てえ野郎の家に隠れているんだ。あの女のお蔦に相違ねえことは、まず人相が合うし、何よりもお前桝目の印を打った小判を持ってやがる」
「するてえと何ですかえ、神田の津賀閑山も同類なんで?」
「いや、そんなこたああるめえ。とはいうが、これあほんの俺の気持ちだからな、閑山も当分にらんでおかざなるめえて」
「なるほど。妻恋坂の饗庭は? 親分」
「饗庭は臭え。が、大物だからな。よほどつかんでかからねえことにあ思わぬどじを踏むぜ。まあ、遠巻きだ。それが上策よ」
 いい終わって、文次は腕を組んだ。
 眼を伏せて、膝の上の御用帳をみつめている。
 この御用帳というのは、いわばいろは屋の自家用覚え書きで、お役人からおおせつかった探索の用事、市井で起こった事件、それらに関する聞き込みなどを、忘却を防ぐために雑然と書きとめておく帳面であった。大福帳みたいに筆太に御用帳と書いた、半紙を横折りにとじた帳面がいつも居間の壁にかかっていた。それが、いろは屋|名代《なだい》の御用帳であった。
 文次は今この御用帳のあるところを開いて、しきりに眼を走らせている。
 ――こんなことが書いてある。
 先般来、江戸に男女二人づれ
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