なかった。
だからいろは屋文次はめったにお縄《なわ》をしごかなかった。が、一度しごけば、それは必ず大きな捕親《とりおや》として動きのないところであった。
お蔦は俺の掌《て》の内だ。明日にでも御用にしよう――。
文次はにっ[#「にっ」に傍点]として、聞き耳を立てた。
津賀閑山が何かじめじめ[#「じめじめ」に傍点]いい出したからである。
「全く識らない女でございますよ。はい、お手先らしい男に追われて店へ飛び込んで来ると、突然《いきなり》、あの鎧櫃を買って自身ではいりましたんで、まことに藪《やぶ》から棒《ぼう》のようなお話ですが、真実真銘、この白髪頭《しらがあたま》に免じて――」
手先らしい男――? と文次が小首をかしげると、猫侍のかれ声だ。
「さようなこと聞く耳持たぬ。神田の閑山として多少は人に知られた貴様と暖簾《のれん》のためを思えばこそ、内済にしてやろうとこうまで骨を折っているのだ」
大変恩にきせている。かと思うと、
「すこしは考えてみろ、出るところへ出れば、貴様の首はたちまち胴を離れるぞ」と一たん張り上げた持ち前の咽喉《のど》をぐっ[#「ぐっ」に傍点]と落として、
「それ
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