である。
ことによると最初から狸《たぬき》寝入りをして見ていたのかもしれない。
こうなると女も驚かない。くらやみに白い歯がちか[#「ちか」に傍点]と光った。
「ああ、もってるとも。だがね。これはいわくつきのお金でね。あるお方からお声がかりがあるまではあたしが預かっているようなものなのさ」と十二分に要心して「お礼をいわしてちょうだい。小父《おじ》さんが拾って来たのもこの中の一枚だったよ」
眠っているはずの男と、起きている女とのあいだに、小声に珍妙な問答がはじまる。里好は相変わらず軽く鼾をかいている。
「わしは拾って来たのではない。どうしてあのどうろく[#「どうろく」に傍点]がその小判を持っていたのか知らないが、昌平橋のうえで掏《す》ったのだ。巾着《きんちゃく》切りだよ、わしは」
里好子、寝言に事寄せてみごとに名乗りを上げた。これで女は結句安心したとみえる。
「そうかえ、おおかたそんなところだろうと思ったのさ」
格別面白くもなさそうだが、伝法なことばづかいはもう里好を仲間扱いにしている。
「そんならこれから親分さんと呼ぼうかねえ」
里好が眠《ね》たまねをしているせいか、どうも女
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