く女のもので、これを入れれば数もそろう。女はひとりごと。
「どこをどうまわって来たのか知らないけれど、こりゃあたしんだから、いっそもらっておこうよ」
 と女が、里好の小判も入れてすっかりしまい込んだとき、犬のようにはいながら窓の下を離れた黒い影がある。
 二、三間行って伸び上がると、いろは屋文次だ。
 さては今までのぞいていて、委細を見届けたものとみえる。
 何か考えるところがあるのだろう。ぱっぱっ[#「ぱっぱっ」に傍点]と土を払うと、わざと雪駄をちゃら[#「ちゃら」に傍点]つかせてそのままうす闇に呑まれてしまった。
 灯りのない屋根の下は、暮れやらぬ外光が物の姿を浮き出させて、海の底のようにひっそりとしている。そのなかで女はつくねんと長火鉢にもたれたまま、身じろぎ一つしない。里好の寝息が、まを置いて安らかに糸を引いている。
 と、だしぬけに声がした。
「えらい大金を持っていなさるのう」
 女はぎょっとして顔を起こした。が、案ずることはない、里好が寝言をいっているらしい。
「うむなかなか金を持っている」
 里好がつづける。寝言は寝言だろうが、これはまたずいぶんと壺《つぼ》にはまった寝言
前へ 次へ
全240ページ中145ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング