しかし、その犬も歩けば棒に当たるとか申しましてな」
といった時、篠《しの》突く雨の音を消して、家の周囲《まわり》にどっ[#「どっ」に傍点]と人声が沸き立った。
「しらべの筋あって南町奉行隠密まわり同心|税所邦之助《ざいしょくにのすけ》出張致した。開門、かあいもうーん!」
奥と台所で同時に燈火《ともし》を吹き消した。
漆黒《うるし》の闇。
やけのやん八どうなとなれ
鎧櫃で、どこともなく変な旅をしたあの女。
ようようのことで吃りの殿様と猫侍の屋敷をのがれ出て、だらだら坂をおりてほっ[#「ほっ」に傍点]と一息。
まずよかった。
ここもお江戸の町らしい。
――角の小店で途《みち》を聞いているところへ、背後《うしろ》で多勢の跫音がしたので、振り返ってみると、いま来た坂を五、六人の男がばらばらばら[#「ばらばらばら」に傍点]っと駈けおりてくる。
追っ手だ!
と知るや、女はきっとなった。
同時に振りから腋《わき》の下へ手を差し入れて懐中《ふところ》の小判包みをしっかり押えて、しゃなり、しゃなりと歩き出した。
うまくゆくかどうか、ま、一つとぼけてやれという気。
で、
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