風よりも烈しい、大きな渦《うず》がまいていた。近寄る人をまき込まずにはおかない愛慾《あいよく》の鳴門《なると》だ。守人は全身に雨を受けて、手負いのようにうなりながら、帰路《かえり》を急いだ。
「そこもとの身にはある筋の眼が光っておることをよもやお忘れではあるまい」
 方来居を出るときに玄鶯院がこういった。このある筋とは何をさすものか、それは、いうまでもなく守人にはわかっている。わかっていて、なおかつ愛刀帰雁を唯一の護身者として、こうして暗黒《やみ》に紛れて出て歩くには、守人にしても、そこによほど重大な用向きがなくてはかなわぬ。
 じっさい守人は、このごろ毎晩のように歩きまわるのだ。月が照れば照ったで月夜烏のように、雨が降れば降ったで雨を切ってぬれ燕《つばめ》の飛ぶように、かれは夜ごとに家をあけて、どこをどうぶらつくのか、暁近くこっそりと方来居の裏木戸をくぐるのが常だった。
 そのときいつも必ず目をさましている玄鶯院は、そばの冷たい寝床へはいる守人をただじろりと見やるだけで、ついぞことばをかけたことはなかったが、守人は蒲団《ふとん》をかぶるまえに、玄鶯院に指を出して見せるのだ。それが人さ
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