た》あたりを押していよう。木履《ぽっくり》の音、物売りの声、たいした人出だ。
「おい、姐《ねえ》さん」
と呼びかけられて、本堂うら勅使の松の下で立ちどまった女がある。うらうら[#「うらうら」に傍点]と燃える陽炎《かげろう》を背に、無造作な櫛巻《くしま》き、小弁慶《こべんけい》の袷《あわせ》に幅の狭い繻子《しゅす》と博多《はかた》の腹合わせ帯を締めて、首と胸だけをこう背《うしろ》へ振り向けたところ、
「おや! あたしかしら?」
という恰好《かっこう》。年のころは廿と四、五、それとも七、八か。
「おうっ、嬉《うれ》し野《の》のおきんじゃあねえか。いやに早《はえ》え足だぜ。待ちねえってことよ」
紺《こん》看板に梵天帯《ぼんてんおび》、真鍮《しんちゅう》巻きの木刀を差した仲間奴《ちゅうげんやっこ》、お供先からぐれ[#「ぐれ」に傍点]出して抜け遊びとでも洒落《しゃれ》たらしいのが、人浪《ひとなみ》を分けて追いついた。
「あんなに呼ぶのに聞こえねえふりしてじゃらじゃら[#「じゃらじゃら」に傍点]先へ行きなさる。お前も薄情な罪つくりだな」女はすこしきっとなった。
「あの、お呼びなすったのは、あ
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