けた。
さっ[#「さっ」に傍点]と流れ出る黄色い光のなかに、向かい合って立った守人と銀二郎。
銀二郎にとっては意外の意外だ。思わず一歩下がって、
「やっ! 汝《なんじ》は篁!」
「またあったな」
にっこり[#「にっこり」に傍点]した守人が、つかつかと、戸外へ出ると、銀二郎は押されて往来の真中へ。――
たちまち!
斬り込んで行った帰雁、斜になって流したはずの銀二郎の構えが遅かったか、ないしは足がくずれたか、右の肘《ひじ》から脇腹へかけて一太刀《ひとたち》受けた銀二郎。
「ううむ!」
と、うなるとたんに思わず刀を取り落とす。そこを、ばっさり[#「ばっさり」に傍点]と唐竹割《からたけわ》りというが、そのままに斬って下げた。
あざやか!
とどめを刺した守人が、星空を仰いで死骸の着衣《きもの》で帰雁の血糊《ちのり》をぬぐったとき!
わっとわき立った無数の人声。今までどこに伏せっていたものか、御用提灯の明りが、四方《あたり》の暗黒を十重二十重《とえはたえ》に囲んで、御用! 御用! の声も急に、邦之助の率いる捕手の一団が、雲のごとく、霧のごとく、群がり、どよめいて、迫り囲んだ。
ぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]とした文次、守人を家へ引きずり込んで、立ち騒ぐお蔦といっしょに、折から起き出たおこよに預ける。そして早口におこよの耳へ。
「姉さん、とうとう来たぜ、いつも頼んであるようにしてくれ」
一言いうと自分はすぐに戸を閉めて、行燈を吹き消そうとしたが、そのときは、もう税所邦之助が、表を乱打している。あけると、身拵《みごしらえ》厳重に八丁堀の役人がものものしく押し込んで来た。
「文次、貴様の所に、篁守人がいると聞いてもらいに参った。重罪人をかくまった貴様も同罪、しょっぴいて行くからそう思え」
その邦之助のすぐうしろに、にやり[#「にやり」に傍点]と笑っている御免安兵衛の顔を見つけて文次の腹は煮え返った。
飼い犬に手をかまれるとはこのこと。
どうもようすが変だと思ったら、御免安の奴、訴人をしたのだ!
そんな者はおりませぬ。お疑いなら家探しを――となって邦之助の一行が狭い家を見まわるまでもなく、すぐに怪しい一人の男が見つかった、職人風の頭で蒲団《ふとん》をかぶっている。
「何だ、この者は?」
「新規に雇い入れた寿司の職人でございます。握り三年と申しましていい職人は
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