い物を頬ばって、
「だらけねえじゃねえか。感心だの、この飴は。」
「到来物《とうらいもの》でござんす。」
「どこから?」
お久美は、うつくしい線にからだを反らして、うしろの茶箪笥の棚から、二、三枚重ねた散らしのような紙をとった。
「伏見屋から、二丁町の鸚鵡石《おうむせき》に添えて、挨拶にまいりました。」
日本橋通油町の鶴屋とともに、役者の似顔絵などで聞こえた絵草紙屋伏見屋は、このお数寄屋町の上庄から一足の、池端《いけのはた》仲町にあった。
「そうかい。そりゃあ気がきいている。」
「また芝居絵の珍しいのが、新しいのも古いのも、たくさん出ものが揃いましたから、おひまの節お立ち寄り下さいますようとの、口上でござんした。」
こどものように、にこにこして、庄吉は、黙ってその、出たばかりの市村座のおうむ石を取り上げて挑めていた。
鸚鵡石というのは、各座とも狂言ごとに作って、絵草紙屋や芝居のなかで売る、あれだった。茶屋からの見物には、桟敷でも、平土間でも、役割と、この、鸚鵡石という絵草紙はかならず出るのだったが、そうでない客は、小銭を出して買わなければならなかった。仲売りが、菓子などとともに
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