思議なのを通りこして、途方もなく愚かしいことに感ずるだけだった。こどものころにどこかであの絵を見たことがあって、その時の恐ろしい印象が、記憶の下積みになって意識の底に潜在しているのだろうか。そして、それが、地下を流れる暗い小川のようにつづいて来て、時どき心理の表面に夢となってあらわれる。そんなことがあるだろうか。しかしお久美は、どう考えても、あの絵を見たおぼえがないのだった。
夢は、その夜もかの女へ来た。つぎの晩も、夢を見た。庄吉が真剣に心配し出したほど、お久美は眼に見えて、瘠せおとろえて往った。
悄《やつ》れたかの女のまえに、庄吉の呼んできた医者が、すわっていた。
庄吉は、世のすべての夢などというものから、極端に離れた、常識家らしい顔をにこにこさせて、
「お久美、よく診てもらうがいい。魘《うな》されることを、お医師さまに詳しく話してみな。何だか知らないが、わたしはどうも馬鹿なことを気にしているとしか思えないのだ。心気の凝りというやつ、ねえ、先生、そんなところでございましょう。」
医者は黙って、お久美の顔を見ていた。
「やっぱり、あなたも怖くなったんでございますね?」
お久美
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