うち。」
お久美が、気がなさそうに答えると、
「それがいい。気散じに、兼でも伴れて行ってきなさい。面白いものがあったら、もらって来るがいい。」
と、庄吉は、急に思い出したように、
「おお坊主どもは?」
「やっと昼寝して、ほっとしているところでござんす。」
「おおかた、悪戯の夢でも見ていることだろう。」
夢、という忘れていたことばが、かすかにお久美の顔いろをかえた。庄吉は気がつかずに、
「どれ、一仕事。」
立って行った。
瞬間、呼びとめて、朝からあんなにこころを圧して来た夢のことを、話そうかとも思ったが、笑われるだけにきまっているので、あなた、と出かかった声を呑んで、
「まあ、お気の早い。お召更えなすったら。」
「いいやな。またすぐ汗になるんだ。」
はなして、慰められたところで、何のたしにもなるのでなかった。ことに、夢で誰かが待っているような気がする。庄吉の愛に冷水を落すようで、そこまではいえないのだった。やはり黙って、そして、できるだけ考えずにいたほうがいい。かの女は、この会体の知れない恐怖感に、しっぽり全身を漬けて、それをじぶんだけのものとして酔い痴れていたい気もちもあっ
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