取り交されたならば、或いは二人の中の一人が、生命を失うようなことにはならなくてすんだかも知れない。然しとうとう要之助は目を開《あ》かず、藤次郎もそれ以上、彼を起そうとはしなかった。
翌日、藤次郎は腹痛と称して終日ねた。
彼は腹よりも胸が苦しかったのである。凡てはめちゃめちゃになったように思えた。
それでも未だ、彼はもしや、と考えた。藤次郎にとっては同じ屋根の下にいて、而ももう一人の女給と同じ部屋にねている美代子の所へ、要之助が忍び入るという事は一寸考えられなかったのだ。
それから彼はどうかして事実をつきとめようと決心した。しかしその後何ごともなかった。尤も藤次郎は決心はしながらも、じきに深い眠りに陥いってしまうのが常だったが。
ところが昨夜《ゆうべ》の出来事はもうどうにも何とも云いようがなかったのである。
彼は真夜中頃に突然目がさめた。
パチンと誰かが彼の頭の上にいつもついている十二|燭《しょく》の電気を消したのである。明るい部屋が突然暗くなったので、却って彼は目をさましたのかもしれなかった。
その時その闇の中ではっきり彼がきいたのは要之助が、
「なーに、かっぱさん、豚
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