鎮も其の前夜、要之助と一緒に来た男に売ったことをはっきりと述べた。そうして被害者の写真を見るに及んで二人の商人は買手を確認した。
 兇器の出所《でどころ》、買手、及びそれがその場に在った理由は明かにされた。
 要之助が、被害者とその前夜映画を見たことは、要之助の詳しい陳述其の他プロ等によって認められた。而も十分に殺伐な映画を見たことが明かになった。要之助は、藤次郎がもしその予定の犯罪を行《や》ったならば述べたであろう位に、詳細にその夜見た映画について陳述をなしたのであった。
 無論、彼の犯行当時の精神状態は専門家の鑑定に附せられた。その結果は要之助の陳述の通り、彼の殺人は全く無意識行動なることを推定せらるるに至った。
 予審判事は事件を公判に移すべきものにあらずと認めた。要之助は遂に釈放せられたのである。

 事件はただ之だけである。
 然し、果して要之助は夢遊病の発作で藤次郎を殺したのであろうか。それ以外には考えることは出来ぬだろうか。
 鑑定は無論慎重にされたであろう。
 けれどそれは絶対に真実を掴み得るものだろうか。誤ることはないだろうか。
 又、仮りに之を殺人事件とすると、検事
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