によれば此の文鎮こそ殺人に用いらるべきものなのである。

 映画館のスチルを見ながら、藤次郎は出来るだけ殺伐な光景を探しまわった。そうしてとうとう或る日本物ばかり映写される○○館に要之助を連れ込んだのである。
 彼の見立ては確かに成功した。
 写し出される映画は殆ど皆剣劇だった。殊に或る[#「或る」は底本では「惑る」と誤植]有名な映画俳優が、主役になっている映画には、殺人狂とさえ思われる人物が活躍した。その人物は全巻を通じて何十人という人間を斬り殺したり、突き殺したりした。
 刀がぎらりと閃いて、斬り手の殺伐な表情が大写しになる度毎に、藤次郎は要之助の横顔をちらりと見た。
 要之助は夢中で、スクリーンの殺人に見入った。
「もっと殺せ、もっと斬れ」
 と藤次郎は心の中で叫んだ。
 要之助も或いはそう思っているのではなかろうか。そう推察されてもいい程、彼も亦熱心な観客の一人であった。
 彼等がN亭に戻ったのは其の夜の十一時頃だった。
 今更藤次郎の計画を説明するのは読者にとっては或いは煩わしい事かも知れない。然しここに一応それを明瞭にしておく。

 藤次郎は、正当防衛に藉口《しゃこう》して
前へ 次へ
全28ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング