中の中に恋人伯爵夫人を殺してしまう。
 時計が大写しになる。正に二時五分前。
「其の夜の二時頃であります。彼はがばとはねおきました。彼は夢中のまま伯爵夫人の部屋へと進むのであります。ドアー(説明者は戸のことをドアーと発音した)の鍵穴よりうかがい見れば……」
 説明者の説明につれて映画はクライマックスに達する。夢の中で自分の部屋から出かけて行く所を、その青年に扮した役者は非常に巧みに演じた。彼は説明者のいうところと一寸違って伯爵夫人の寝室の戸をこつこつと叩く。夫人は恋人の声を聞いて戸を開くと、男が不意にとびかかって絞殺する。この辺は極めてスリリングであった。藤次郎は空になった卵の袋を握りしめながら映画に見入った。
 之から名探偵の活躍となりついに博士がほんとうの犯人であることがわかる。博士はいよいよ追跡急なるを知るや自動車をとばせて逃げだす。結局は逃げ場がなくなって自殺をしてしまい、青年は許されておまけに百万長者となるという、後半は全くくだらないものだった。
 が、藤次郎は息をもつかずにこの映画を見終った。
 彼が××館を出たのはもう夜になってからである。いつもなら他の館に入る彼は何思っ
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