手は新宿からここまでのせるのをいやがって本郷あたりで故障だからといって君等を下ろしてしまう。このあいだもそういう目にあった人が僕の所へ相談に来た。僕は直ちに本書第三百一頁を開いて見せた。ほら、ここに明かに記《しる》してある。斯くの如く法律知識は必要なものであるにかかわらず、多くの人は殆ど其の必要を感じていないとは実に解すべからざる事実である。法律を知らずして世を渡らんとするは、闇夜に灯火なくして山道を歩くようなものではないか。
然し、諸君、君等はいうだろう、それは民法に就いてのみ云うべきことである。刑法などの知識は正しい人にとっては必要はないと。だから困るんだよ。いくら正しい人にでも其の知識は絶対的に必要なのだ。例をあげて見ようか、仮りに諸君の中に気狂いがいて、いや之は失敬、諸君の中には無論いない、いなければこそこうやって僕の云うことを静聴していらるるわけだが、だが、諸君、世に馬鹿と気狂い位恐ろしいものはない、今ここで僕が斯うやって話をしているとき、突如気狂いが刀を抜いて斬りつけて来たらどうするか、逃げ得れば問題はない、その間がないのだ。やつを殴るか斬られるか、という場合だ。判り切っ
前へ
次へ
全28ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング