日を草原の中でねて暮そうかとも考えたが、結局、いつもの慰安所たる公園に来てしまった。彼は、どこかの映画館に入るつもりなのである。
朝めしを食う気がしなかったので食べずに出て来たせいか、妙に空腹を感じて来た。
然しわざわざめし屋に入る気もしなかった藤次郎は、池の角の所に出ていたゆで卵屋の所で、四ツばかり卵を買うとそれをそのまま袂に入れた。彼は映画を見ながら之を食べるつもりなのである。
卵を買ってぶらぶら歩いて行くと人だかりがしていた。見ると人力車をたてかけてその上に袈裟衣をつけた僧形《そうぎょう》の人が一生懸命に何か云っている。彼はふと足をとめてその話をきいた。何か宗教の話ではないかと思ったのだ。所が突然その坊さんは、
「然るに現内閣は……」
と云いだした。藤次郎は何となく興味を失って、そのさきにあった群衆の方に歩《あゆみ》をうつした。彼は今どんな話にも興味がもてない。然しどんな話にでも、興味をもとうと努めているのである。
その一つさきの群衆の中心には角帽を冠った大学生風の男が手に一冊の本を携えてしきりに喋舌《しゃべ》っている。否どなっている。
「諸君は恐らく、そんな事はめった
前へ
次へ
全28ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング