へ行く時は右の舗道を歩くのが最も安定だと考えるにきまっています。何故ならばあそこの舗道は甚だ狭く左側を通れば後から来る多くの自動車におびやかされるからです。子爵は素早くあたりを見まわす、といってもまず右側だけです。前面はカーヴしているからこっちだけ見ていればよい。左側は鉄柵で仕切られた植込みだからめったにこっちから人が来る筈はない。そのうち子爵と某紳士の距離はますます迫る。この辺でよしという所で、子爵はまッしぐらに相手の身体めがけて――即ち今までの進路から一寸左にハンドルを切って突進する。今まで通りに歩いていれば安心だと思っていた相手は驚いて逃げようとするひまがない。無論右に避けたいが鉄柵ですぐにはとび越えられぬ。仕方がないから左即ち車道に出ようとする。とたんに車体が相手を引き倒すという次第なのです。この場合相手が車道へ少しでもとび出して来ることが必要なのです。何故なら歩道へのりかけてそこで引き倒しては明かに過失ですから。自殺した場所さえ車道なら、はじめ少し車がカーヴして来てもその跡なんか、キぐ踏んでも消せますからね。現にあなたの場合などは全然車のあとは踏み消されて居たそうです。無論あ
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