でした。そうして当歳や二歳の児がたちまち肺炎になって死亡して行くという事が、私の近所でもはじまったのです。私はこれをきいた時、全く時《とき》来《きた》れりと感じました。
一月の或る寒い日でした。外には吹雪が荒れて、下には四寸位の雪が積っています。機会を狙っていた私はその日朝から珍しくひろ子をだいたりあやしたりやって居ました。暗くなってからひろ子がすやすやとねついたので、敏子は、私にるすを頼んで風呂に出かけました。この時です。この間です。失ってならないのはこのひまです。私は妻が傘をさしかけて出て行くのをたしかめてから、そっと裏口を開けました。
外は今も申すような物凄い吹雪です。私はねているひろ子を出来るだけ着物をはいで、裸体にして抱きました。濡れぬように軒のへりに沿って歩きながら、この寒い中に立ちつくしました。ここは一面の畑で誰も通るおそれはなかったのです。こうやって、二歳になる赤児が、一時でも早くこの烈しい寒気の呪いを受けるようにと祈ったのでした。
私は全く悪魔でした。ひろ子は殆ど素裸体にして抱きながら自分は戦慄しつつもまるで寒さを忘れていました。烈しい伊吹|颪《おろし》に我が子
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