ははじめ考えませんでしたが、しかし、自分の気のせいか、目のあたりが、私よりも彼に似ているように思われて来ました。
そうして、日がたつにつれて、だんだんと面ざしが彼に似て来るように思われるのです。
私は或る一夜、眠れぬままにいろいろに考え耽《ふけ》りました。敏子は過去の罪を自白した。しかし、これは自分としては許したのだ。許さざるを得なかったのだ。敏子が心を改めている以上、自分は過去を凡て葬り去ってしまわなければならない。この事は今苦しいには違いないけれ共、この心の傷は年が経つにつれて癒えてゆくべきものに相違ない。
しかし、ひろ子は? 若しひろ子が敏子の過去の罪の結果生まれたのだとすれば、ひろ子が生存する限り、自分と敏子とは、憎み合わねばならない。少くとも自分は、韮《にら》を噛むような思いをして一生を送らなければならない。しかもひろ子は一日一日と生長している! 自分と敏子との間にあるこの障害は一日一日と大きくなっているのだ。
若し、ひろ子が死んでくれたら! そうです、私の頭に一番はじめに浮かんだのは、若しひろ子が死んだら! という事でした。もしひろ子が死ねば私と妻との間には過去以外
前へ
次へ
全39ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング