否、将来ばかりではない、結婚後だって無論そんな事はない。只あれは結婚前の過失だから、どうか許してくれと申すのです。先生、こう云われてはどうすればいいのです。未練な私は敏子をまだ愛して居るのです。妻の涙を許すより他仕方がなかったのです。
その頃妻は妊娠して居ました。私は妻の告白後、その腹の児を疑ったのです。しかし、これに対して、妻は断固として私の疑いの根拠のない事を主張しました。妻とこの話をする度に、私はそれをきかされました。きかされては、心で安心したのです。しまいには疑いが心に食い入って来ると、わざと妻になじり、妻が断固として私の疑いを破壊してくれるのを頼りにしていたような男らしくないひねくれた私になってしまいました。
昨年の夏、妻は遂に女児を生みました。ひろ子という名をつけて妻は愛し切っています。しかし、私はひろ子が生まれたその時から、その顔を見たその時から、何故か『これは俺の子ではない、あいつの子だ』と感じたのでした。不幸な事です。しかしほんとうの話なのです。近所の人は私に似て居るとお世辞を云っています。けれどどう見たって私の顔に似て居るとは考えられませぬ。私は水原に似ていると
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