しまった位幸福だったのです。
 ところが偶然の機会から、この幸福は全く破れてしまいました。それはたった一つの封書にすぎませんでした。結婚後暫くたってからの或る日、男文字で書かれた手紙が妻宛に来たのです。私は自分の所に一緒に来た手紙を片っぱしから開いていたので、つい、その手紙も自分のところに来たものと思い違えたのでした。無論封筒の上書きが男の字だったから、こんなことになったのでした。中から出て来たのは、水原からの手紙だったのですが、表にはっきり男の字で書いてある位ですから、中の文句だって一つもへんな事は書いてありません。
 けれど、変な事の書いてないその手紙が私には、限りなく不快だったのです。『その後御結婚|被遊《あそばされ》御幸福に御暮しの由』という第一冒頭の文句からして、気に入りませんでした。私の気もちにして見れば、私の妻は私のもので誰からも指一つさされたくないのです。私ら夫婦の間に、他の男から手紙が妻に来るなどという事は考えられなかったのです。私は、たしかに嫉妬深い男でしょう。たとえなき不愉快な数日の後、ある夜私は妻を責めて責めて責めぬいたのです。そうして水原との間について訊ねまし
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