殺して、しかも罰せられずにすむかという事を書いて居られる」
「それで?」
「判りませんか、私のいう意味が。あなたはああいうものを書く事によって多くの人々に巧みな殺人方法を教えているのです。人を殺しても、こうすれば決して罰せられぬという事を宣伝して居るのです。かりにここに殺人を行おうとする人間があれを見て、もしまねをしたらどうします? あなたはそんな事を考えた事はありませんか」
「まさか、そんな人はないでしょう」
「しかし、幾千万の中に一人でもそんな人が居たら、あなたは何と云ってその人と社会に謝りますか? そうです、たった一人でもそういう人が出たらあなたの責任です」
「僕はそんな事は有り得ないと思う」
「いや、あるかも知れない。少くも有り得る。少くもないとは云えない!」
 彼は断固として云い切った。
 ここに至って彼は今やなめくじ男ではない。蛇男でもない。猛虎である。彼は真正面から私に迫って来るのである。実際私もたじたじの形で今更、こんな論題を追った事を後悔した。
「しかし、有り得ると君が云った所で、又ないと僕が断言したところで、つまり水かけ論に終るのだからね。ともかく君の御忠告はあり難
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