に、今日あなたは相川という男と一緒に来られたそうですが」
「一緒にったって全く知らん男なんですよ。同じ車に乗ったら急に向こうから私に話しかけるんで、私も退屈凌ぎに相手をしていたわけです。しかし停車場ではとんだ目にあいましたよ。一緒に歩いてくれと云うので、一緒に歩いてやったんですがね。どうも一寸キ印じゃないんですか」
「いや、そうですか、全く御関係はないのですか」
「無論ですよ、何か彼と共犯関係でもあるという御疑いなら御免|蒙《こうむ》りたいものですな」
これは勿論、半分冗談のつもりだったが、共犯関係[#「共犯関係」に傍点]という、或る犯罪を前提にした言葉は彼の為に聊《いささ》か不用意だったとすぐ感じた。果たして署長はやはり半ば冗談らしくこういうのである。
「いや勿論そんな事は思いはしません。しかし、何か彼は大分いろんな事を、あなたに白状したそうですね」
この言葉は、私を疑っているのでない事は明かに判っているけれ共、法律家としてはこれに対してうっかりは乗って行かれない。
「ええ、何かへんな事を云っていましたよ。まあ出鱈目ですね。気狂いじゃないんですか」
私はこう答えると、つづいてこっちから質問した。
「一体どうしたっていうんです? あの男が? 何の嫌疑なんですか、無論斯様な事は立ち入ってうかがうべき事ではありませんが」
署長は、にこやかに答えた。
「別にあなたの事だから、かくす必要もないんですよ。それにとんだ御迷惑までかけたのですから、その点から云ってもお話しした方がいいでしょう。なにね、昨日あの男の妻が自宅で死体となって発見されたのです。一見自殺のように見えるのです。無論自殺としても理屈は立たぬ事はありません。最近子供を失ってひどく悲観していたそうですからね。ただ遺書がないのと、なおこれは一寸まだ申し上ぐべき時ではないのですが二、三、妙な点があるのです。でとりあえず他殺の嫌疑で今犯人を捜索中なのです。あの男もその嫌疑者の一人なのですよ。死体の発見されたのは昨日ですが、殺されたのは――もし他殺とすれば一昨夜ですね。解剖の結果、これはたしかです」
この署長の言葉は、私には全く意外だった。私は一寸ぼんやりとした形だった。しかし、つまらぬ事を云わないでよかったと思った。同時に私はある事をすぐ思い浮かべた。
「それならばあの男は無罪です。私は一昨夜の十時頃、東京市内
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