時あなたはすぐお父様の声だと判りましたか」
「はい」
「では、お父様が何と叫んでおられたかおぼえていますか」
「いいえ、なに分部屋もはなれておりますのでそれはよく判りませんでした」

      11[#「11」は縦中横]

「よろしい、それから?」
「私は何事か容易ならぬことが起つたと感じましたので、夢中で戸の所にかけつけ鍵をあけて廊下に飛び出しました」
 この時藤枝が検事の許しを得てちよつと口を出した。
「ひろ子さん、あなたは、騒ぎをきいてなんと感じましたか」
「…………」
「つまり、容易ならぬことというのは、たとえばどんなことです?」
「私、はつきりおぼえておりませんが、母がどうかしたんじやないかと考えまして」
「あなたは、お母様が風邪の薬を昨日求められたことを知つていましたか?」
「いいえ、それは母が死にましてから妹にききました」
「いや、ありがとう。失礼しました」
 今度は検事がつづけた。
「ではそれからの話を」
「そこで私はねまきのまま廊下に出ますと、すぐに父の所にかけつけました。廊下では父と妹が夢中になつて母の部屋の戸を叩いておりましたが、父はねまきで妹はちやんと着物をき
前へ 次へ
全566ページ中81ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング