すと、私はハーデイの本に手をのせたまま、横になつておりましたが、なんとも云えぬうなり声が聞えるのです。はつと思つて起き上るとその声はたしかに母の寝室からきこえるではありませんか。私は驚いてドアをあけ、母の寝室の前にいつてお母様、お母様と叫びましたけれども、中からは苦しそうなうなり声がきこえるばかりで、一向に戸のあくようすもありませぬ、戸をわれるように叩きましたが駄目です。それで私は隣室にねている父の方の戸を割れるようにたたきますと、父は泥棒がはいつたとでも思いましたか、手にピストルをもちながら『誰だ、誰がやられた?』と云つてとび出してまいりました」
「ちよつと待つて! 誰がやられた?」
「はい、父も無論あわてたのでしよう。誰がやられた? と申して飛び出して来ました。それで私は母の部屋をさしますと、父もそのうなり声をきいたと見え、驚いて『どうした? 徳子』と叫んでおりましたが、そのうちねまきのままでさわぎをきいてかけつけた姉も一緒に力を合わせまして戸を破つてはいりますと、母が床の上に身をくねらして苦しんでおりました。
父がいそいで抱きあげて介抱しましたが、もう唇の色が変つており、物も云
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